(2)養子縁組一択だった出産前
スタッフM(以下M):翔子さんは、出産前からはっきり、子どもは養子縁組にすると決めていましたよね。迷いはなかったですか?
翔子さん(仮名、以下S):妊娠中は、迷わなかったです。虐待家庭で育って、自分が愛情ある家庭を築けると思っていなかったから。彼のことは大好きだったけど、子どもを産んで一緒に育てることは考えられなかったので、妊娠がわかった時に、妊娠の事実は告げずに別れました。今でも彼は私の妊娠も出産も養子縁組も知りません。
M:そうだったんですね・・・。そういう決断をするほど大変な家庭環境だったんですね。
S:赤ちゃんの頃に虐待をされた後遺症が今もあります。小さい頃からずっと施設で育ちました。親は死んだのだと思っていたら、12歳の時に施設に母親が来て、「この人がお母さんだよ」と言われて、「えぇ?」と。引き取られたけれど母親や母親の彼氏に虐待されて14歳で家を出ました。
M:お母さんにされたのと同じように自分も虐待してしまうことが心配?
S:赤ちゃんを見ると、かわいいと思います。でもしゃべれるくらいの年齢になったら、「かわいい」だけじゃないですよね。イライラすると思う。私は普段はあまり感情を表に出さない性格だけど、何かあった時に豹変してしまうのではないかと不安に思います。
M:自分が親になることが不安で養子縁組を選んだんですね。妊娠がわかった時、「産まない」という選択肢を考えることはありませんでしたか?
S:なかったです。不思議がられることがありますが、私の中では妊娠したら産むもの、と思っていたので、中絶することはまったく考えませんでした。自分が施設育ちで、自分の子どもに同じ経験をさせたくなかったし、養子縁組の知識もあったので、赤ちゃんをどうするかについては養子縁組一択でした。
M:なるほど。それでも出産後には精神的にきつかったという話を最初にしてくれましたね。出産前にはそういう辛さはなかったんですか?
S:産む前は、気持ちがふわふわしているんですよね。ほんとに産まれるのかな、みたいな。自分のお腹の中にいるから、「離れる」という想像ができない。
M:妊婦さんにとってはとにかくまず体調を整えて無事に産むというだけで一大イベントですからね。産んだ後のことについては現実感がないのも理解できます。
3/6へ続く